本稿の課題は次の2つである。第1の課題はシンポジウムの趣旨説明で,市場価格の低迷など厳しい現状にある養殖マダイの食材・商品としての良さや魅力を学際的に見直し,価値再生を検討することである。商品学的なアプローチから,①非経済的な領域を含めた多面的な価値,③消費地での使用価値,輸出商品としての価値,④生産地における価値づくりの取り組みについて検討する。
第2の課題は,非経済的な領域の価値を検討して養殖マダイの価値再生の方途を探ることである。総合的な水産版食育「ぎょしょく教育」の概念「魚色」・「魚植」・「魚飾」に起因する3つの非経済的な領域で,養殖マダイの価値は優位にある。栄養的な価値は健康志向,アンチエイジング機能の効果が大きい。環境的な価値は宇和海の場合,清浄で豊穣な漁場である。文化的な価値は歴史的,調理科学的,民俗的,食文化史的にみて,地域の生活や文化に密着した食材,地域資源のひとつと位置付けられる。一般消費者の評価をみると,養殖マダイには天然崇拝やマイナスのイメージが残存し,天然魚との比較では鮮度や安全性,見た目は大差がない。非経済的な領域でも,養殖マダイには高いメッセージ性や大きなポテンシャルが存在することから,消費者の満足度を高めるために,体験重視の産消交流をはじめ啓発~普及~教育などニッチな場面での付加価値化に向けたシステム構築が不可欠である。