地域漁業研究
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Print ISSN : 1342-7857
論文
西海捕鯨業における巨大鯨組の経営と組織
壱岐勝本浦土肥組を中心に
古賀 康士
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ジャーナル オープンアクセス

2016 年 56 巻 2 号 p. 31-61

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抄録

近世日本の主要な捕鯨地域において,西海捕鯨業はその産業規模を最も拡大させるだけでなく,数千人の労働者を動員し,複数の鯨組を操業する「巨大鯨組」とも呼ぶべき大規模経営体を生み出した。この巨大鯨組については,これまで平戸生月の益冨組を対象に経営面における先進性・近代性が強調されたが,他の巨大鯨組の実証分析を踏まえた総合的な理解は果たされていない。そこで本稿では益冨組と並ぶ巨大鯨組の一つ壱岐勝本浦土肥組を対象にその組織と経営の実態を分析した。

経営組織に関しては,西海捕鯨業の鯨組が多数の自律性の高い内部組織に分化し,労働力の組織化と管理コストが低減されていたことが示された。こうした組織化・管理コストの縮減は,限られた経営資源で複数の鯨組の同時操業を可能とし,巨大鯨組が生成される組織論的な前提となった。他方,複数の鯨組を制御する管理部門は鯨組間で種差が見られ,階層的な組織形態をとる益冨組とは対照的に,土肥組の管理部門は独立性の高い同族団と地域の有力層によって緩やかに編成された。この管理部門のあり方は勢力拡大に要する資源を地域から獲得するのに有効に機能したが,地域への利潤還元を基調とする温情主義的な経営行動を生み出し,利益追求型の新しい型の鯨組が台頭するなかで,土肥組の衰退と破綻の一因となった。

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© 2016 地域漁業学会
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