バイオガス中の硫化水素は,発酵槽へ微量の空気吹き込みを行うことで硫黄酸化細菌の働きによって除去することが可能であり,この生物脱硫法は簡易かつ経済的な手法として注目されている.生物脱硫の実証実験を行っているバイオガスプラントにおいて,発酵槽内部ではフィラメント状の硫黄を蓄積した生物マットが形成された.生物脱硫においてこうした発酵槽内部での反応環境および微生物生態に関してはほとんど知られていない.本研究では,微小電極測定と分子生物学的手法を用いてマットの内部および環境微生物生態の解明を試みた.微小電極測定の結果から,硫黄蓄積の反応制御因子であるマット内への供給O2/S2-tot比(S2-tot=H2S+ HS-+S2-)は0.45であり硫黄蓄積に適した環境であった.また,CARD-FISHの結果から,マット内で硫化水素からの硫黄生成を行っていると考えられるアクティブな硫黄酸化細菌はSulfurimonas属に近縁な細菌であり,それらの細菌がフィラメント硫黄形成に関与している可能性が示唆された.