琵琶湖では年に一度の全層循環が生じにくくなっており,底層の貧酸素状態の定常化とそれに伴う栄養塩類や重金属類の溶出が懸念されている.本研究では,琵琶湖南湖から採取した不攪乱の底泥を用いて,底層溶存酸素濃度の減少により,底泥中から溶出する有機物や栄養塩類,重金属類の溶出フラックスにどのような違いが生じるかを,15日間の溶出試験から明らかにした.貧酸素条件下では溶存態リン,全鉄,マンガンの溶出フラックスはそれぞれ,3.05,21.3,10.5 ㎎/㎡/day であり,好気条件よりも大きいことが明らかとなった.一方,硫酸イオンは好気条件の方が貧酸素条件よりも溶出フラックスが大きく,溶存態窒素やシリカは溶存酸素濃度によって違いがないことが明らかとなった.本研究で得られたデータは,今後常態化しうる琵琶湖底層の貧酸素化によって,有機物や栄養塩類,重金属類が底泥から溶出する状況を量的に把握する上で重要な知見となる.