環境技術
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殺菌剤として添加されたチモールが降水試料の分析に与える影響・妨害
王 彦剛藍川 昌秀平木 隆年正賀 充玉置 元則
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2006 年 35 巻 4 号 p. 295-301

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抄録

現在, 酸性雨現象は, 雨, 雪や霧を対象とした湿性沈着と非降水時のガスや粒子を対象とした乾性沈着の両者を含めて評価されているが, 測定の基本はいかに正確に降水を捕集し化学成分を分析するかという点から出発する.降水中の化学成分は微生物活動, 光や熱の影響, 大気中気体成分の吸収ならびに共存する粒子状物質との相互作用によって変質する.そのため, 試料採取においては, 冷却, ろ過, 遮光ならびに密閉などの対策をとる必要がある.このうち, 冷却の目的で冷蔵庫内蔵型のサンプラーの使用が推奨されているが, どうしても高価な装置とならざるをえない.一方, 酸性雨現象は大陸内程度の中-長距離輸送による酸性物質の大気中ならびに雲中での硫酸や硝酸への化学的変化過程に基づくとされるため, 広域的な監視網の形成が必要である.この目的で, 2000年から日本, 中国, 韓国を中心とした東アジア酸性雨モニタリングネットワーク (EANET) が立ち上げられ, 2001年からは測定が開始されている.この中で, 夏季の試料ならびに熱帯地域周辺の国々の試料においては, 試料採取後の化学成分の変質防止が大きな課題となっている.チモール (2-イソプロピル-5-メチルフェノール) は降水試料を採取・保存する際に冷蔵庫が使用できない場合の殺菌剤としてその使用が推奨されている.確かにチモールは有効な殺菌剤であることが証明されてきたが, 他方, チモールは降水試料を分析する際に分析に影響・妨害を与える可能性がある.本研究では, 事前に容器中に一定量のチモールを添加する採取法を想定し, そのことが, 降水試料のpH測定や吸光光度法での化学成分測定におよぼす影響を調べた.
10-4M (mol/l) のKC1溶液のpHはチモールの添加量が100mg/100mlを超えると低下した.その一方, 実際の降水試料のいくつかではチモールの添加量が10mg/100ml以下であるとpHは上昇し, 100mg/100ml以上であるとpHは低下した.NH4+ (アンモニウムイオン) を分析する際に吸光光度法であるインドフェノール青法を用いる場合はチモールを添加することにより吸光度が低下したが, これはインドフェノール青法を用いる際に添加するフェノールと殺菌剤として添加したチモールの競争反応によると考えられる.インドフェノール青法において吸光度がどの程度低下するかは添加されたチモールの濃度によるが, 試料採取する際に添加するチモール量は試料採取容器をセットする前に一定量を加えるため, 試料採取後にチモール濃度が試料中でいくらになるかは調整できない.このことからNH4+を分析する際にインドフェノール青法を用いる場合はチモールを添加することは分析上適さない.
また, 同様の吸光光度法である, 塩化物イオン分析用のチオシアン酸第二水銀法, 硝酸イオン分析用のサリチル酸ナトリウム法および硫酸イオン分析用の硫酸バリウム比濁法についても, 吸光度に与えるチモールの影響を調べたが, いずれも影響は認められなかった.

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