抄録
本研究の目的は, 鏡を用いて健常手の触刺激場面を観察させ, 麻痺手の体性感覚を誘発(referred sensation:RS)させることが, 半側空間無視(unilateral spatial neglect:USN)を有する患者の空間的な正中位判断に及ぼす影響を検討することであった. 対象は, 右被殻出血により左USNを有する左片麻痺患者1例であった. 鏡を用いてRSを誘発させる介入課題を10分間施行し, 介入課題前後の空間的な正中位判断の正確性を測定した. 空間的正中位判断テストは, ディスプレイに呈示された2個の長方形の間に生じた空間の正中位を, マウスクリックで同定させた. 長方形間に生じる空間のサイズを3条件設定し(8cm, 16cm, 24cm), ランダムな呈示順序で計30試行の測定を行った. 実験の結果, 鏡像の健常手の触刺激観察を実施して3分後にRSが生じ, 8分後まで徐々にその主観的感覚が強くなり, 健常側に対し5割の感覚が誘発された. さらに, RS誘発の介入前には空間的正中位の右偏向が認められたにもかかわらず(右方向に1.44±1.66cm), 介入後には有意に改善された(0.3 ± 0.51cm). 本症例検討から, 鏡像の健常手の触刺激観察は麻痺手の体性感覚を誘発させ, それに付随してUSNを改善させる可能性が示された.