2016 年 16 巻 p. 17-23
症例は62歳、男性右利き。58歳で橋出血を発症。意識清明、コミュニケーション良好(軽度構音障害)。右上・下肢の重度運動麻痺及び体性感覚脱失、左上・下肢の軽度運動失調が認められた。もう一本の腕(余剰幻肢:Supernumerary phantom limb)が右肩から伸びており、この腕は自由に動かすことができると訴えた。随意性のある余剰幻肢の特徴を評価するために、安静時・余剰幻肢運動時・麻痺肢運動時における自画像描写課題を行った。安静時において余剰幻肢は麻痺肢と同じ位置に存在していた。一方、余剰幻肢の運動時には幻肢は麻痺肢から離れた位置に存在しており、両者の分離は麻痺肢を随意的に動かすことができる可動範囲を幻肢が超えた瞬間に生じていた。余剰幻肢と麻痺肢とで異なる運動を行うことはできず、余剰幻肢が麻痺肢を引っ張っている感じがするとの訴えがあった。これらの結果は余剰幻肢と麻痺肢の随意運動はある程度共通した運動企図情報により遂行されることを示唆する。橋出血後に随意性のある余剰幻肢が4年以上遷延した症例は未だ報告されておらず、本症例報告は余剰幻肢の病態解明に向けた重要な資料になると考えられる。