脳科学とリハビリテーション
Online ISSN : 2432-3489
Print ISSN : 1349-0044
16 巻
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レクチャー
  • 高杉 潤
    2016 年 16 巻 p. 1-5
    発行日: 2016/08/29
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    脳損傷例のリハビリテーションにおいて、評価や介入に難渋することがある。そのようなケースの特徴として、①複数の症候が混在して現象が複雑化している、②運動学や神経学的水準では解釈・説明できない現象を示している、③セラピストが他の類似する症候に見間違えたり、その症候に気付かず見落としている、等が挙げられる。その際、評価を正確に進めるためには、まず混在した症候一つ一つを検出し、選り分ける作業が必要となる。この作業の精度、効率を上げるためには、脳の構造と機能を理解すること、脳画像を活用すること、神経学的所見および神経心理学的所見を見極め、その検出法を習得することにある。脳損傷例の評価の考え方は極めて単純である。飽くまでも「損傷は脳」なのである。症例の示す行為障害の原因は脳に由来するため、脳機能から分析していくことが極めて効率的で科学的な方略といえる。損傷した脳の部位(病巣)はどこで、その病巣による症候はどのようなものがあり、行為にどのような影響を及ぼすのかを漏れなく分析すればよいのである。

症例報告
  • —神経症状及びリハビリテーションの経過—
    加藤 將暉, 植木 亜希, 城野 加奈子, 足立 真理, 後藤 恭子, 大賀 辰秀, 乳原 善文, 井田 雅祥, 高杉 潤
    2016 年 16 巻 p. 7-16
    発行日: 2016/08/29
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    広範な脳梗塞に対して内科的治療で脳浮腫の制御が困難な場合、脳ヘルニアを回避する救命手段として外減圧術が施行される。一方で頭蓋骨欠損状態の長期化は、大気圧による脳の圧迫により様々な神経症状の増悪(頭蓋骨欠損症状)を招き、頭蓋形成術により神経症状が改善するとされている。症例は40歳代の男性で、診断名は微小変化型ネフローゼ症候群に伴う左中大脳動脈領域梗塞。第3病日に外減圧術、第113病日に頭蓋形成術が施行された。頭蓋形成術後の神経症状の変化について、先行研究のような術後早期の顕著な改善はなく、長期経過で緩徐な改善を示すにとどまった。その要因として、頭蓋形成術前のCTにおいて大気圧の圧迫によるmidline shiftは認めず、頭蓋骨欠損症状が重篤ではなかったことや、微小変化型ネフローゼ症候群の加療の方針により頭蓋形成術が遅延し、脳血流改善の好影響を受ける時期を逸したことが考えられた。

  • 山本 竜也, 小坂 尚志, 中園 徳生
    2016 年 16 巻 p. 17-23
    発行日: 2016/08/29
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    症例は62歳、男性右利き。58歳で橋出血を発症。意識清明、コミュニケーション良好(軽度構音障害)。右上・下肢の重度運動麻痺及び体性感覚脱失、左上・下肢の軽度運動失調が認められた。もう一本の腕(余剰幻肢:Supernumerary phantom limb)が右肩から伸びており、この腕は自由に動かすことができると訴えた。随意性のある余剰幻肢の特徴を評価するために、安静時・余剰幻肢運動時・麻痺肢運動時における自画像描写課題を行った。安静時において余剰幻肢は麻痺肢と同じ位置に存在していた。一方、余剰幻肢の運動時には幻肢は麻痺肢から離れた位置に存在しており、両者の分離は麻痺肢を随意的に動かすことができる可動範囲を幻肢が超えた瞬間に生じていた。余剰幻肢と麻痺肢とで異なる運動を行うことはできず、余剰幻肢が麻痺肢を引っ張っている感じがするとの訴えがあった。これらの結果は余剰幻肢と麻痺肢の随意運動はある程度共通した運動企図情報により遂行されることを示唆する。橋出血後に随意性のある余剰幻肢が4年以上遷延した症例は未だ報告されておらず、本症例報告は余剰幻肢の病態解明に向けた重要な資料になると考えられる。

経験
  • ~高次脳機能障害支援センターの取り組み~
    揚戸 薫, 武藤 かおり, 阿部 里子, 大塚 恵美子
    2016 年 16 巻 p. 25-33
    発行日: 2016/08/29
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    高次脳機能障害は、本人が病識を持つ事が難しく、「見えない障害」とも言われ、周囲から誤解を受け易いという特徴を持つ。当高次脳機能障害支援センターは、この「見えない障害」の症状を明らかにし、本人、家族、支援者と共有することで、次の支援体系に繋ぐ役割を担う。高次脳機能障害者の生活実態調査ではADLは7割前後が自立しているが、契約・手続きなどの社会参加の自立は1割、金銭管理や調理の自立は2割余りと報告されている。今回、「出産後、家事が上手くいかなくなった。夕飯の支度が夫の帰宅に間に合わない。」という主訴を持つ、脳挫傷の既往がある主婦に対し支援を行った。評価では調理自体には問題はなく、遂行機能障害や注意障害により1日の家事の計画や献立作成に難渋していることが判明した。そこで代償手段を取り入れた結果、それを用いることで徐々に円滑に家事が行える様になり、さらに地域のヘルパー利用に繋ぐ事で「夕飯の支度が夫の帰宅に間に合うようになる」という目標を達成し、家事の一部自立が継続できた。高次脳機能障害者は変化する生活状況への適応の困難を抱える。病院や施設の生活では検出され難い実生活場面での問題点も、脳機能との関係で整理し、リハビリテーション専門職が関わることは、IADLの向上に大きな意味を持つと考える。

総説
  • 田中 悟志
    2016 年 16 巻 p. 35-41
    発行日: 2016/08/29
    公開日: 2018/11/01
    ジャーナル フリー
    頭蓋の外から1mA程度の微弱な直流電流を与える経頭蓋直流電気刺激法(Transcranial Direct CurrentStimulation: tDCS)は,外科手術を行わずヒトの脳活動を修飾する手法である.装置の安全性,簡便性,携帯性が高いことなどから,ここ10年ほど脳卒中リハビリテーション分野で盛んに研究が行われている.脳卒中患者の上肢運動機能に関してはtDCSの有意な促進効果がメタ分析で示されており,今後は多施設による大規模な臨床研究の成果が望まれる.一方,言語機能,下肢運動機能,体性感覚機能など上肢運動機能以外の機能に関してはデータも少なく,今後データの蓄積が必要である.近年はtDCSの効果に関してネガティブ・データも多く報告されている.また,効果の個人差も報告されている.厳密な実験で得られたデータを積み上げることで,tDCSは「何に対して効果があり,何に対して効果がないのか」,また「誰に対して効果があり,誰に対して効果がないのか」を明らかにしていく必要がある.
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