2017 年 17 巻 p. 31-37
地理的障害である道順障害と街並失認との合併例に対するリハビリテーションは、言語メモ等を用いた言語的な手がかりが有効とされている。しかしながら、さらに重度の注意障害が合併した症例報告はこれまでになく、有効なリハビリテーションも明らかでない。今回、我々は脳損傷により道順障害と街並失認、重度の注意障害を合併し、病棟内のような狭い空間においても道に迷うほどの重度の地理的障害例を経験した。本症例に対し、自室-トイレ間の移動自立を目的としたいくつかの介入を試み、反応の違いを比較した。その結果、言語的な手がかりを用いた介入は効果がなかった。これは、移動しながら言語的な手がかりを活用できない様子から注意障害の影響が考えられた。一方、言語的な手がかりではなく、視覚的な手がかりであるランドマークを自室に設置したところ、自室-トイレ間の移動が自立した。これまで、地理的障害と重度の注意障害との合併例に対するリハビリテーションの報告はなく、このような症候が合併した場合は、視覚的なランドマークを用いた介入が有効である可能性が推察された。