脳科学とリハビリテーション
Online ISSN : 2432-3489
Print ISSN : 1349-0044
17 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
レクチャー
研究報告
  • -関心領域についての検討-
    岡本 善敬, 山本 哲, 武下 直樹, 石橋 清成, 門間 正彦, 河野 豊, 沼田 憲治
    2017 年 17 巻 p. 9-16
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    脳卒中片麻痺患者の運動機能予後予測に対し拡散テンソル画像解析の有用性が報告されているが,解析対象とする関心領域(region of interest: ROI)は一定していない。本研究は,皮質下脳卒中片麻痺患者の運動機能予後を最も反映するROIを明らかにすることを目的とした。対象者は回復期リハビリテーション病棟入院の初発皮質下脳卒中片麻痺患者23名。退院時の手指brunnstrom recovery stage(BRS)をもとにBRSⅢ以下を運動麻痺重度群(10名),BRSⅣ以上を軽度群(13名)に分類し、入院時に撮像した拡散テンソル画像から,重度群と軽度群のfractional anisotropy(FA)値をtract-based spatial statistics(TBSS)を用いて比較した結果,重度群は軽度群と比較し損傷半球の内包後脚および上放線冠で有意にFA値が低下していた。次に,運動機能予後と最も関連するROIを明らかにするために,TBSSにて有意差を認めた内包後脚および上放線冠,先行研究で多用されている大脳脚のそれぞれの左右領域からFA ratio(rFA)を求め退院時BRSとの相関分析を行ったところ,内包後脚rFAが退院時BRSと最も強い相関を認めた。これらの結果から,皮質下脳卒中患者の運動機能予後を最も反映するROIは内包後脚であると考えられた。

症例報告
  • -残存した認知機能障害は小脳の損傷に起因するのか?-
    若旅 正弘, 石橋 清成, 岡本 善敬, 山本 哲, 沼田 憲治
    2017 年 17 巻 p. 17-20
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    重篤な認知機能障害が小脳出血後7ヶ月時点においても残存した症例を経験したので報告する.症例は発症1ヶ月時点で当院回復期リハビリテーション病棟に入院した.入院時,著明な自発性の低下と重篤な認知機能障害を認めた.当院退院時(発症7ヶ月時点),自発性は改善したものの,重篤な認知機能障害は残存した.これまで慢性期小脳損傷例を集めた研究では,いずれも認知機能障害は無症状~軽度であると報告されているが,重篤な認知機能障害が残存した症例報告もある.重篤な認知機能障害が残存したとされる症例と本症例では,急性期に一過性の水頭症や脳幹の圧迫が認められた.本症例の遷延した重篤な認知機能障害に,小脳の損傷のみならず,急性期に生じた脳幹や大脳への影響が関与している可能性も考えられた.

  • 加藤 將暉, 大賀 辰秀, 植木 亜希, 山田 史恵, 足立 真理, 後藤 恭子, 井田 雅祥, 高杉 潤
    2017 年 17 巻 p. 21-29
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    脳損傷後に生じる成人の夜尿症は両側前頭葉損傷との関連が指摘されているが、報告例が極めて少なくその要因は明らかでない。今回、右大脳半球深部白質梗塞後に重度の夜尿症を呈した症例について、その要因を考察した。症例は、60歳代の男性、右利き。診断はアテローム血栓性脳梗塞。発症当日のMRI所見は、DWIにて右放線冠とその周囲に高信号を、FLAIRにて両側の前頭眼窩野、前部帯状回、内側前頭前皮質に高信号を、T2*にて右前頭葉高位皮質下に低信号を認めた。第40病日の臨床所見は、日中の意識は清明で、排尿管理を含め日常生活動作は自立していた。しかし夜間の睡眠中は尿意覚醒も無く、重度の覚醒障害を認め、週5日の重度の夜尿を認めた。第50病日頃から尿意覚醒がみられ、夜尿は徐々に軽減し、第102病日には週1日まで軽減し自宅退院となった。また、本症例の既往歴は6年前に両側前頭葉梗塞と5年前に右前頭葉高位皮質下出血を発症した。いずれも発症直後から重度の夜尿症と覚醒障害を呈し、約8ヶ月後には改善を示した。脳損傷後に生じる成人の夜尿症は両側前頭葉損傷との関連が指摘されているため、今回の発症が責任病巣とは考え難く、既往歴からも6年前に発症した両側前頭葉病変を背景とした代償経路の損傷やdiaschisisによるものと推察した。また覚醒障害は夜尿症児の臨床所見と酷似し、夜尿症と同様の前頭葉病変が関与したと推察される。

  • -言語的な手がかりではなくランドマークの設置が有効であった症例-
    内田 武正, 若旅 正弘, 高杉 潤
    2017 年 17 巻 p. 31-37
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2018/11/02
    ジャーナル フリー

    地理的障害である道順障害と街並失認との合併例に対するリハビリテーションは、言語メモ等を用いた言語的な手がかりが有効とされている。しかしながら、さらに重度の注意障害が合併した症例報告はこれまでになく、有効なリハビリテーションも明らかでない。今回、我々は脳損傷により道順障害と街並失認、重度の注意障害を合併し、病棟内のような狭い空間においても道に迷うほどの重度の地理的障害例を経験した。本症例に対し、自室-トイレ間の移動自立を目的としたいくつかの介入を試み、反応の違いを比較した。その結果、言語的な手がかりを用いた介入は効果がなかった。これは、移動しながら言語的な手がかりを活用できない様子から注意障害の影響が考えられた。一方、言語的な手がかりではなく、視覚的な手がかりであるランドマークを自室に設置したところ、自室-トイレ間の移動が自立した。これまで、地理的障害と重度の注意障害との合併例に対するリハビリテーションの報告はなく、このような症候が合併した場合は、視覚的なランドマークを用いた介入が有効である可能性が推察された。

短報
  • 山本 哲, 岡本 善敬, 武下 直樹, 石橋 清成, 沼田 憲治
    2017 年 17 巻 p. 39-44
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2018/10/22
    ジャーナル フリー

    経皮的な末梢神経電気刺激の付加と一次運動野(M1)への磁気刺激を組み合わせたPaired associative stimulation(PAS25;刺激間隔25 ms)は,片麻痺治療に有用な介入となることが期待されている。これまでに,健常者を対象とした,PAS25による運動誘発電位(MEP)の振幅の変化は,同条件のPAS25においても増大するという報告と減少するという報告がある。我々は,左および右半球のM1に対し2連続経頭蓋磁気刺激を行い,短母指外転筋で計測されたMEP振幅の左右比に着目することによって,より安定したPAS25評価方法の開発を目的に実験を行った。健常成人10名を対象とし,PAS25前後に,左右M1への単発および2連続TMSによるMEPの計測を行い,皮質脊髄路の興奮性を反映する単発TMSによるMEPの振幅と,2連続TMSにより生じたMEP振幅の左右比を求めた。結果,PAS25による単発TMSのMEP振幅の変化は一定した傾向を認めなかった。一方MEP振幅の左右比は,PAS25前と比較しPAS25後に,全対象に値の増大が観察された。このことよりMEP振幅の左右比は,安定したPAS25評価方法であり,ばらつきの大きい単発TMSによるMEP振幅より優れた評価方法であると考えられる。

feedback
Top