脳損傷後に生じる成人の夜尿症は両側前頭葉損傷との関連が指摘されているが、報告例が極めて少なくその要因は明らかでない。今回、右大脳半球深部白質梗塞後に重度の夜尿症を呈した症例について、その要因を考察した。症例は、60歳代の男性、右利き。診断はアテローム血栓性脳梗塞。発症当日のMRI所見は、DWIにて右放線冠とその周囲に高信号を、FLAIRにて両側の前頭眼窩野、前部帯状回、内側前頭前皮質に高信号を、T2*にて右前頭葉高位皮質下に低信号を認めた。第40病日の臨床所見は、日中の意識は清明で、排尿管理を含め日常生活動作は自立していた。しかし夜間の睡眠中は尿意覚醒も無く、重度の覚醒障害を認め、週5日の重度の夜尿を認めた。第50病日頃から尿意覚醒がみられ、夜尿は徐々に軽減し、第102病日には週1日まで軽減し自宅退院となった。また、本症例の既往歴は6年前に両側前頭葉梗塞と5年前に右前頭葉高位皮質下出血を発症した。いずれも発症直後から重度の夜尿症と覚醒障害を呈し、約8ヶ月後には改善を示した。脳損傷後に生じる成人の夜尿症は両側前頭葉損傷との関連が指摘されているため、今回の発症が責任病巣とは考え難く、既往歴からも6年前に発症した両側前頭葉病変を背景とした代償経路の損傷やdiaschisisによるものと推察した。また覚醒障害は夜尿症児の臨床所見と酷似し、夜尿症と同様の前頭葉病変が関与したと推察される。
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