抄録
遺伝子としてのDNAの機能を考えると塩基部分に受ける損傷がDNAの情報伝達に大きな影響を与えていることがわかる。今回は紫外線損傷核酸の修復酵素の一つであるT4エンドヌクレエースV、がん遺伝子に生じた損傷が細胞のがん化の引き金となる現象、抗紫外線損傷核酸抗体の分子認識について述べたい。
1)T4エンドヌクレエースVの切断機構
T4エンドヌクレエースVのチミンダイマー除去とDNA鎖切断の機構を調べるために合成遺伝子による大量発現とX線結晶解析による3次元構造の決定を行った。また、チミンダイマーを含む合成基質との共結晶化に成功し、酵素が結合した時に相補鎖の塩基がflip outして損傷塩基が切断される機構を明らかにした。
2)がん遺伝子の変異
Ras遺伝子の変異頻発部位にチミンダイマーや8-オクソグアニンを導入した合成遺伝子を用いることによって、損傷塩基が変異の原因となりうることを実験的に示した。これは複製時に誤った水素結合を形成するためであると推察される。
3)抗紫外線損傷核酸抗体の構造と分子認識
二階堂らの樹立したピリミジンダイマー認識抗体は検出同定などに多用されているが、遺伝子のクローニングを行うことによって、CDRのアミノ酸配列を決定した。(6-4)光産物を含むDNA断片を合成し、佐藤らのグループと共同でFabフラグメントとの複合体の3次元構造をX線結晶構造解析により明らかにした。嶋田らのNMR測定により抗原DNAとCDRの結合の詳細を探った。一本鎖抗体を作成し、変異を導入することによって、抗原との結合の詳細を表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いて調べた。