抄録
【目的】本研究室ではこれまでキナーゼ活性阻害剤であるpurvalanol Aによる胃由来腺がん細胞MKN45における放射線誘発アポトーシス誘導増強効果について検討を行ってきた。purvalanol AはCdc2のキナーゼ活性を抑制し,MKN45において放射線誘発G2/M期チェックポイント関連たんぱく質であるリン酸化Cdc2,cyclin B1,Wee1のダウンレギュレーションを引き起こすことにより,アポトーシス誘導が増強されることが明らかとなった。しかしながら,そのアポトーシス誘導に至る経路は明らかとなっていない。そこで本研究ではpurvalanol Aによる放射線誘発アポトーシス誘導における抗アポトーシスたんぱく質の発現を検討した。【方法】MKN45(wild p53)に対し,purvalanol A存在下での放射線誘発抗アポトーシスたんぱく質の検討はウエスタンブロット法にて,メッセンジャーRNA発現レベルの検討は半定量的PCR法にておこなった。【結果】MKN45に対しpurvalanol Aと放射線照射を行うと,放射線によって誘導される抗アポトーシスたんぱく質Bcl-2,Bcl-XLの発現がpurvalanol Aによって抑制されていることが明らかとなった。またIAP(inhibitor of apoptosis proteins)ファミリーメンバーのsurvivin,XIAPの発現が放射線とpurvalanol Aを共処理することにより抑制されていることが明らかとなった。メッセンジャーRNAレベルでは,Bcl-2とsurvivinの発現が抑制されていることが明らかとなった。一方,アポトーシス促進たんぱく質として知られるBaxはX線照射単独では発現になく,purvalanol Aにより抑制されたが,その程度はBcl-2と比べて有意な差は見られなかった。以上の結果からpurvalanol Aと放射線によるアポトーシス誘導は抗アポトーシスたんぱく質のダウンレギュレーションによって引き起こされていることが考えられる。