抄録
気象研究所では、人工放射性核種の降下量の長期的なモニタリングを実施してきた。この間、グローバルフォールアウトとして全球にばら撒かれた人工放射能が、再浮遊過程を通じて、さらに再分布しつつあることがわかってきた。すなわち、核実験・事故の直接影響のない1990年代に気象研究所(MRI、茨城県つくば市)で観測した大気降下物中には、近傍と遠隔から浮遊・輸送された土壌粒子が含まれていることがわかってきた。遠隔成分は乾燥・半乾燥地帯から長距離輸送された、風送ダストであると考えられる。本発表では、引き続き観測した2000年代の90Srおよび137Csの降下量について、1990年代と2000年代とで、なんらかの変化があったかどうか検証したい。90Srおよび137Csの年間降下量について2000年代のデータを含めてプロットし、みかけの減少半減期を求めた。90Srおよび137Csについてそれぞれ約10年、20年となり、1990年代の降下量につき得られたみかけの半減期とほとんど変化はなかった。年間降下量として眺めた場合、1999~2001年の黄砂の激しかった3ヶ年においても、著しい降下量の増加は認められなかった。この他、137Cs/90Sr比の変動や3次元風送ダストモデルによる計算結果などを含めて議論する予定でいる。