抄録
長期間にわたって低線量率放射線によって誘発された突然変異が体組織幹細胞に蓄積するかどうかを明らかにするため、Dlb-1座のヘテロマウス (Dlb-1b/Dlb-1a) に線量率0.04,0.86 あるいは15.56 mGy/day のγ線を8から78週齢にかけて483日間連続照射した。総線量は0.02、0.42 あるいは 8.0 Gyとなった。Dlb-1bは小腸絨毛上皮でフジ豆レクチンの受容体を発現させ、Dlb-1aは非発現の遺伝子である。照射2週間後、被曝マウスから小腸空腸部を採取し、定法に従って、フジ豆レクチンで染色した突然変異検定用標本を作成した。この標本を実体顕微鏡下で観察して、絨毛上皮の幹細胞におけるDlb-1b遺伝子の突然変異を絨毛表面で変異クローンとして検出した。各マウスで約10000の絨毛を観察し、現在まで各群18から19個体のうち10個体分の検定を終えている。変異クローン頻度は絨毛10000あたりのクローン数とし、対照群、低線量照射群、中線量照射群および高線量照射群でそれぞれ25.6±0.8, 25.6±0.8, 26.1±0.8, 35.2±1.0となり、有意な照射効果が高線量照射群で認められた。回帰分析から求めた単位線量1Gyあたりの誘発率1.38±0.33は、別途行った8から13週齢のヘテロマウスに対する線量率0.1から3 mGy/minのγ線照射実験で求めた誘発率1.20±0.08とエラーの範囲内で一致した。この結果は次の結論を支持する:(1)長期間にわたって低線量率放射線によって誘発される突然変異は体組織幹細胞に蓄積する;(2)突然変異誘発に関する体組織幹細胞の放射線感受性は加齢によって変化しない。本シンポジウムでは変異クローンのサイズについて得られたデータも報告し、長期照射中に絨毛あたりの幹細胞の数が不変であった証拠も提出する。