抄録
ヒトは多くの化学物質に曝露されており、低線量(率)放射線の生物影響を考える際には、放射線のみの影響ではなく、化学物質との複合影響を勘案する必要がある。突然変異検出用トランスジェニックマウスを用い、低線量率放射線とタバコ特異的ニトロサミン4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1-butanone (NNK)の複合遺伝毒性を検討した。雌gpt deltaトランスジェニックマウスにγ線を異なる線量率(0.5, 1.0, 1.5 mGy/h)で22時間/日、2週間照射した。照射を継続しつつNNKを腹腔内投与(2 mg/mouse x 4 days)し、照射下でさらに2週間飼育した。屠殺後、肺における塩基置換突然変異と欠失変異を測定した。NNK投与により塩基置換変異頻度は3-8倍上昇したが、γ線照射による顕著な複合影響は観察されなかった。一方、γ線照射による1 kb以上の欠失変異頻度は、NNK非投与群では照射線量に依存して上昇したが、NNK投与群では用量依存曲線が釣り鐘型になり、1.5 mGy/hでの変異頻度が非照射群と同程度にまで減少した。NNKと放射線の複合遺伝毒性機構について討論する。