抄録
2次元ゲノムスキャン法によりマウスにおける放射線の遺伝的影響を調べている中で、高度不安定性を示すATリッチな配列を見出した。
合計368頭のF1マウスにおいて、AflII(C/TTAAG)部位で32P標識したDNAについて、1頭当り514個のスポットを調べ、父親BALB/c由来スポットに合計18個の突然変異を検出した。そのうちの7個は同一スポットs754の変異であった。独立事象としては3回なのでこのスポットの自然突然変異率は0.8%/世代となる。
このスポットは、2次元パターンで横一列に並ぶスポット群の中のひとつである。これらの横並びスポットは、マウス系統間で高度の多型を示し、C57BL/6Nと/6J間で約40個がすでに異なっていた。これらの横並びスポットのうち3個をクローニングしたが、塩基配列はBALB/cのs754と同一あるいは殆ど同じであった。また、C57BL/6N、C57BL/6J、BALB/c、C3Hマウスの2次元ゲルからDNAをナイロン膜に転写し、s754DNAをプローブとしてサザン解析を行ったところ、横1列に(2次元ゲルで生じるスポットと同じ位置に)スポットが観察された。従って、これらの横並びスポットは同じファミリーに属するものと判明した。同じプローブを用いて1次元のサザン解析を行ったところ、17種のM.musサンプル全てに同じ長さのバンドが検出されたが、M.spretus、ラット、ヒトでは陰性であった。BLASTサーチでs754塩基配列に該当するBACクローンは2個みつかったが、マウスドラフトSequenceでは部分的に一致する配列しか見出せないので、s754配列はドラフトSequenceが途切れている部分に存在すると思われる。この配列はM.musに特異的であるが、その形成過程や不安定性の理由は不明である。