抄録
電離放射線による主要なDNA損傷として,酸化された塩基や鎖切断が同定されている。さらに,これらの損傷は,それぞれ塩基除去修復機構および組換え修復により修復されることが明らかにされている。電離放射線は,上記の損傷の外にDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)やDNA鎖間のクロスリンクを誘発することが明らかにされているが,これらの損傷の修復機構は解明されていない部分が多い。我々は,これまでに,グアニンの脱アミノ化損傷であるオキザニンがポリアミンやDNA結合タンパク質(ヒストン,DNAグリコシラーゼ)と反応し,DPCを形成することを明らかにした。さらに,第46回大会では,オキザニンとポリアミン(スペルミン)のクロスリンク損傷がヌクレオチド除去修復(NER)機構で修復されることを報告した。DPC損傷では,かさ高いタンパク質の立体障害により,損傷部位へのNER損傷認識タンパク質の結合や引き続くNER複合体の形成が阻害される可能性が予想される。本研究では,DPCのNER修復モデルとして原核生物のUvrABCを用いて,鎖切断および損傷結合能を検討した。オキザニンを含むオリゴヌクレオチドを合成し,32P標識後,サイズの異なるタンパク質と反応しDPC基質を調製した。このDPC基質をUvrABCとインキュベート後,鎖切断生成物を変性PAGEで分析した。また,DPC基質をUvrABとインキュベート後,DNA-タンパク複合体形成を未変性PAGEで分析した。UvrABCのdual incision活性は,DPCタンパク質のサイズに依存し大きく変化した。同様に, UvrBのDPC-DNAに対する結合量もDPCタンパク質のサイズに依存し変化した。この結果は,UvrA2Bの損傷初期認識がDPCに対するNERの鍵ステップであることを示す。