日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: S4-3
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放射線生物学の古くて新しい魅力
低線量率長期照射によるマウス造血系の放射線適応応答
*大塚 健介
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抄録
マウス個体に低線量放射線を照射することにより、後の大線量照射後の30日生存率が顕著に高まることが報告され、個体レベルで適応応答が誘導されることが知られている。また、その現象と高線量後に生き残った造血幹細胞数との間に相関が見られたため、マウス個体に誘導される適応応答は造血幹細胞の放射線抵抗性獲得がひとつの要因であると考えられる。
このような応答は、事前照射に高線量率低線量を用いた場合で観察された現象であり、低線量率放射線を数十日に亘る長期間照射することによってマウス個体に適応応答が誘導されるかについては報告がない。そこで、我々はマウスに1 mGy/hr程度の低線量率放射線を飼育しながら種々の期間照射し、その後の高線量照射から生き残る造血幹細胞数を指標に適応応答の誘導を評価してきた。その結果、照射期間に依存して造血幹細胞の生存率が高まることを見出した。すなわち、低線量率の長期照射によってもマウス個体で適応応答が誘導されることを示している。
我々の興味は、造血幹細胞が低線量率放射線によって放射線抵抗性を獲得する機構を明らかにすることであり、それによって事前照射だけで変動する指標を見出し、高線量の試験照射なくして適応応答を評価することにある。これまでに適応応答の指標として見てきた造血幹細胞は古典的に確立されたCFU-Sであるが、評価に試験照射が必要であった。一方で、細胞生物学的手法によってCFU-Sよりもより未熟なステージの細胞集団が同定されており、これは照射に依存せずに評価が可能である。そのような細胞集団を詳細に分類し、低線量率照射下における変動を調べることによって、今後の個体の適応応答研究の方向性に新しい道を拓くことができるものと期待される。
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© 2006 日本放射線影響学会
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