抄録
【目的】トロン温泉浴の適応症には多くの生活習慣病が含まれる。この機構の解明については未だ不明な点があり、特にヒトを対象とした研究例は少ない。適応症の多くが活性酸素に関与していることを踏まえ、今回、糖尿病患者の血液中の関連指標などに着目し、トロン温泉浴に伴う変化特性を検討した。また、放射能特性の異なるラドン温泉浴と比較検討した。【方法】糖尿病患者、健常者(対照)の各5名の被験者に対し、トロン温泉室において1日計40分の温泉吸入浴を隔日に施した。入浴前(対照)、入浴開始1、2および3週間目のそれぞれの入浴後に採血し、試料に供した。試料の分析は定法に従った。【結果例と考察】1)トロン吸入により糖尿病患者血中のアセト酢酸(AcAc)と3-ハイドロキシ酪酸(3-OHBA)がともに有意に減少した。即ち、脂肪酸やアミノ酸の不完全分解産物であるケトン体の両者が減少したことは体内インスリン作用不足が緩和されたことを意味する。他の所見も含め、トロン吸入は糖尿病を改善させる可能性が示唆できた。2)トロン温泉室の空気中放射能濃度はラドン温泉室のそれより低かったが、概ねトロン温泉による症状改善はラドン温泉のそれに比べ効果的であることが示唆できた。