抄録
予め低線量の放射線で処理することにより、次回の大線量被爆での生物障害が軽減される現象は放射線適応応答と呼ばれている。これまで我々は、放射線適応応答の指標として脾臓コロニーの優位な増殖を報告してきた。今回、我々はどのような機構で骨髄幹細胞が放射線適応応答を示すのかを検証した。外因性脾臓コロニー形成法により、マウスへの 0.5Gy 前照射後、骨髄幹細胞数は8 日目には半減し、14 日後でも回復しないことを明らかにした。また、前照射14 日後の骨髄幹細胞は in vitro 5Gy 照射に対して対照群より5倍の抵抗性を示した。この結果は、これまで報告されてきた、放射線適応応答で観察される内因性脾臓コロニー数の増加は低線量放射線による増殖刺激ではなく、新規に獲得する放射線抵抗性により生じることが示唆された。この抵抗性には事前照射による p21遺伝子不応答性の関与が示唆された。一方、事前照射8日後の骨髄幹細胞も同様の抵抗性を示した。しかしながら、骨髄移植後の生存率において、事前照射14日後の骨髄細胞は8日後の骨髄細胞より高い生存率を示した。さらに、同数の幹細胞移植による生存率では、事前照射14日後の骨髄幹細胞のみ高い骨髄死抑制能を示した。これらの結果は、放射線適応応答における放射線抵抗性は、事前照射後1週間程度で生じる細胞抵抗性と2週間程度で生じる個体抵抗性の機構から成ることを示唆している。