抄録
近交系マウスC3H/Heは放射線により骨髄性白血病を発生する系統として知られる。我々は骨髄性白血病細胞においてレトロトランスポゾンIAPの逆転写物の組込みによるゲノム異常の頻発することを報告してきた。IAP DNA elementはマウスゲノム内に数千コピー存在し、その転写・逆転写・ゲノム組込みに至る分子機構の解析は極めて困難である。我々は、IAPを強制発現させたライン化細胞における逆転写測定技術を確立し(前二演題参照)、それを個体分析に拡張するためのトランスジェニックマウスを作出した。
ゲノム異常に寄与するIdelta1型のIAP DNA elementの4カ所に短い標識配列を組込みんだ12.5 kb DNAをトランスジーンとして使用した。これをC3H/Heマウス胚に直接法により導入してトランスジェニックマウス個体の作出に成功した。これを野生型C3H/Heマウスと交配してF1およびF2個体を作製し、各個体の血液細胞核酸のreal-time PCRおよびreal-time RT-PCR定量分析により、トランスジーンのコピー数およびRNA量がF1以降の世代で安定化することを確認した。さらに、トランスジーンIAP RNAに由来するcDNAに特有の標識配列の相対位置移動を検出したことから、当該マウスにおいてレトロウイルス型逆転写の発生していることを明らかにした。