抄録
真核生物に見られるDNAメチル化修飾は、epigeneticな現象を司る機構の中でも最も重要なもののひとつである。発生・分化のみならず、多くの生命現象と深く関わっており、その破綻は、癌などの疾患、老化などと密接な関係を有する。この修飾を網羅的に観察する技術の開発は、基礎科学のみならず、疾病研究においても必須である。これまでメチル化と近傍遺伝子の発現との関係が解析され、一般的には、プロモーター領域に存在するCpGのシトシンがメチル化を受けると、その遺伝子領域のクロマチン凝縮が進み、その結果、転写因子のアクセスが阻害されることから、転写は抑制されると言われている。このようなメチル化修飾の観察は、転写物そのものの観察と比べ、(1)低発現遺伝子の転写観察が容易(mRNAを遺伝子発現の材料に用いる場合、低発現転写物の検出が困難になるが、ゲノムメチル化ではこの効果が低い)、(2) poly(A)を持たない転写物を含む未知転写単位の同定が可能、(3)クロマチンにおける記憶機構の理解 (転写のON/OFFに至る前のイベントであり、トランスクリプトーム形成を司る高次の制御の指標である)、のような利点を有する。我々は、メチル化感受性制限酵素とHiCEP法で培った選択PCRの技術を用いるとにより高感度で高網羅性(一度に約30,000箇所の非メチル化部位観察が可能)の解析手法を提案した。今回、本法により真にメチル化を網羅的に観察可能か、また近傍遺伝子の発現変動とメチル化状態の間に有意な関係は存在するか等について詳細な解析を行った。また、数百細胞での解析も可能にした。これらの結果を報告し、当該技術の能力を従来技術との違いを議論する。一方で、本技術は、転写物を解析対象とするHiCEP法と比べ、ピーク数が少なく、擬陽性シグナルもほとんど無い。またalternative transcriptsなどの複雑さが無いため、ゲノム情報からのピーク予測が現実的である。その実証の報告も行いたい。