抄録
現在、ラドン及びその壊変生成物からの被曝による健康へのリスク評価は鉱山労働者の疫学研究に基づいてなされているが、一般公衆への健康リスクを考えた場合、その評価は住居のような一般環境を対象とした疫学研究でなされることが望ましい。近年、欧州や北米等で実施された症例・対照研究のプール解析により、一般環境レベルのラドンへの曝露でも肺がんリスクが有意に増加することが報告されている。中国雲南省は世界有数の錫の生産地であり、同地域の錫鉱山労働者を対象とした疫学調査結果はBEIR-VI報告書のリスク推定に用いられているが、同研究で得られた単位曝露当たりのリスク推定値は他の研究の推定値よりも低く、曝露評価の問題が指摘されている。そこで本研究では、雲南省の鉱山周辺において、一般環境を対象とした新たな疫学研究の実現可能性を検討するために、ラドン・トロン濃度及びそれらの壊変生成物濃度測定を実施した。
本研究では、2004~2006年にかけて雲南省箇旧(Gejiu)市内において、農村部の100家屋、市街地の50家屋を対象としてラドン濃度及びトロン壊変生成物濃度の測定を実施した。長期測定としてパッシブ型ラドン・トロン弁別測定器を用いて、2ヶ月間の測定を行った。また、短期測定として農村部の8軒と市街地の4軒で、アクティブ型の測定器類を用いたラドン・トロン濃度及びそれらの壊変生成物濃度測定を実施した。
調査の結果、住居ではラドン壊変生成物による年間被曝線量の平均値に対して、トロン壊変生成物からの年間被曝線量の平均値は倍程度になると推定された。現在、トロンの線量評価には線量換算係数など不確実な点が多いが、本調査結果で示されたトロン壊変生成物の高い線量寄与は、疫学調査におけるその線量評価の重要性を示唆している。