抄録
欧州および北米で実施された最近のプール解析により、ラドン濃度が比較的低い住居内環境においても、ラドン濃度の増加と共に肺がんリスクが直線的に増加すること、単位ラドン濃度あたりの肺がんリスクは、鉱山労働者の調査結果と大きな矛盾がないことが示されている。それらの研究では、ラドン濃度測定値における不確実性を制御するために、ラドン濃度の空間的・時間的分布をモデル化して推定した「もっともらしい」ラドン濃度値に基づいた解析や、ラドン濃度がより完全に測定された対象者に限定した解析が実施され、いずれもラドン濃度あたりの肺がんリスク推定値が、不確実性を制御しない場合に比べて高くなることが示されている。
ラドン濃度測定値における不確実性のもう1つの源としてトロンが考えられる。住居内ラドンと肺がんに関する過去の疫学調査のうち、中国の黄土高原での症例・対象研究など、ラドン濃度測定の際にトロンを弁別しない測定器を用いた研究では、ラドン測定値が過大評価された可能性が高い。しかしながら、疫学調査におけるラドン測定値の過大評価が、ラドン濃度あたりの肺がんリスク推定値にどのような影響を与えるかは明らかでない。
本研究では、ラドンとトロンが混在する状況において、トロンを弁別しないラドン濃度測定によってラドン測定値が過大評価された場合に、ラドン濃度あたりの肺がんリスク推定値がどのような影響を受けるかを、ラドンとトロンの濃度比等に関するいくつかの仮定に基づくシミュレーションによって定量的に評価した。詳細な検討結果は学会当日に報告する。