抄録
環境中に発生している種々の電磁界の健康影響を評価するため、特に極低周波域およびラジオ波に関しては、様々な研究がなされてきた。一方、中間周波(300Hz~10MHz)の電磁界については、依然として十分な評価データが蓄積されていない。本研究では、中間周波の健康影響に関する基礎的な知見を得るため、特に変異原性に着目して評価をおこなった。中間周波の磁界を曝露するため、樹脂製の炭酸ガスインキュベーターと平面コイルを組み合わせた曝露装置を製作した。本報告での曝露条件は、インキュベーター底部に置いた培養用シャーレの底面で、周波数20kHz・磁界強度最大約310μT(ICNIRPガイドラインの一般公衆の参考レベル6.25μTに対して約50倍)であった。変異原性の評価法としてマウスリンフォーマアッセイ(MLA)を用いた。L5178Y TK+/-3.7.2c細胞を培養後、1×105cells/mlの細胞浮遊液を調整し、磁界曝露群、対照群、陽性対照群(メタンスルホン酸メチル処理)の3群に分けて48時間培養(24時間後に一度継代)した後、生細胞数測定およびTFT耐性変異検出用の96ウェルプレートに分注し、2週間培養をおこなった。培養後、コロニーを形成しているウェルを計数し、突然変異頻度を求めた。その結果、対照群と磁界曝露群の間には有意な突然変異頻度の差は認められなかった。また、コロニーの形成についても両群で差異は認められなかった。したがって、本研究で検討した磁界曝露の条件では、中間周波磁場はMLAで検出される種々の突然変異(点突然変異、染色体レベルの変異)誘発能を持たないことが明らかとなった。