抄録
電離放射線や活性酸素により、DNAには多様な酸化塩基損傷が生じる。酸化塩基損傷はDNAグリコシラーゼが開始する塩基除去修復機構で修復され、この機構はバクテリアからヒトまで保存されている。大腸菌では、酸化ピリミジン損傷は重複した損傷特異性を示すEndo III及びEndo VIIIにより除去される。両酵素の欠損株を用いた解析からも、細胞内でのこれらの役割が重複していることが示されている。Endo IIIのヒトホモログhNTH1、及びEndo VIIIのヒトホモログhNEIL1、hNEIL2も酸化塩基損傷を除去するが、細胞内でのこれらの酵素の役割は明らかではない。本研究では、hNTH1、hNEIL1、hNEIL2の酸化塩基損傷に対する特異性を比較検討した。hNTH1及びhNEIL1はthymine glycolの立体異性体(5R-Tg及び5S-Tg)に対して異なる活性を示した。hNTH1の活性の比は5R-Tg:5S-Tg = 13:1であったのに対し、hNEIL1の比は1.5:1であった。また、HeLa細胞粗抽出物はhNTH1と同様に5R-Tgを優先的に除去した(5R-Tg:5S-Tg = 13:1)。このことから、細胞内ではhNTH1が両Tg異性体除去の主要な活性であると考えられる。また、hNTH1及びhNEIL1は共にTg以外の酸化ピリミジン損傷を除去する活性を示したが、各々の損傷に対する特異性は異なっていた。hNEIL2はAPサイトに対して高い活性を示したが、酸化塩基損傷に対する活性は極めて弱かった。本研究の結果、hNTH1及びhNEIL1は個々の損傷に対する活性に差はあるものの、重複した特異性を持つことが明らかとなった。従って、hNTH1及びhNEIL1は大腸菌ホモログと同様に細胞内において重複した役割を担っていると考えられる。