抄録
がんは,細胞異常増殖及びアポトーシス阻害によって生まれる。これを導くのは,protooncogeneのpower-up及びがん抑制遺伝子のpower-downである。これらの変化は,突然変異によって生じると(がん突然変異説)考えられている。がんは1つの正常細胞が,clonal expansion で転移が可能な病気としてのがんとなる。この過程には6~10個の遺伝子変化が関わる。突然変異頻度を10-6-/cell/generation,6個の遺伝子変異が関わるとすると,(10-6)6 = 10-36 の頻度でがんが出来る。ヒトの総細胞数を1018個とすると,総分裂回数は1018回(20 + 21 -- + 2n-1 式を解けばよい)となる。以上の計算より, 1018人あたり1人のがん患者がでると計算できる。これは,実質的にがんは生じないことを意味する。変異原に発がん作用があることも,がん突然変異説の根幹を支える理論の一つである。他方,非変異発がん物質と呼ばれる物質は,DNA損傷は作らないし,Ames試験は陰性であるが,マウスにがんを作る。この2つの点から考えても,がんが突然変異で生じると考えると,非現実的である。
別の説はaneuploidy説で,ほとんど全てのがん細胞にaneuploidyが見られる。AneuploidyはM期の染色体の分配異常で生じる。その結果,protooncogeneを持つ染色体が増える,あるいはがん抑制遺伝子を持つ染色体が減り,相対的な酵素量の不均衡が生じ,ゆっくりとではあるが細胞増殖傾向,アポトーシス抑制傾向を示し,がん年齢になって発症する。非変異発がん物質の作用機構を,2倍体酵母と培養細胞を用いて解析した。本ワークショップではその成果を俎上にのせdebateしたい。批判大歓迎である!