日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: WS7-4
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がん突然変異への挑戦
染色体異常を基点としたヒト腎細胞癌の発生・進展機構
*吉田 光明
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抄録
ヒト悪性腫瘍における疾患特異的な染色体異常の発見が,その後のがん遺伝子やがん抑制遺伝子の発見ならびに発がん機構の解明に大きく貢献してきたことは言うまでもない。がん細胞における染色体異常を解析するということはゲノム全体の変化を捉えることが出来るという利点,また,個々のがん細胞における変化を知ることが出来るという大きな利点がある。我々はこれまでヒト腎細胞癌(RCC)を対象として染色体レベルにおける変化を長年にわたり追跡してきた。本疾患には第3染色体短腕(3p)の欠失型構造異常が頻発することは周知の事実であり,RCCの発生に関わる最も重要な変化として注目されている。既に3pに存在するがん抑制遺伝子の候補が幾つか単離され,その機能の解明が進められているが我々は染色体レベルにおける変化という視点から,RCCの発生や進展について考察してみた。まず,3pにおける欠失領域に着目して多くの症例を見てみると,現在,候補として注目されているがん抑制遺伝子の存在領域だけではなく,短腕の動原体近傍から末端まで実に大きな範囲にわたって消失していることがわかる。このような大きな領域にわたるDNAの消失はそれだけで細胞にとっては相当のダメージが有るものと予想される。このような染色体の欠失によってゲノムに生ずる不均衡(アンバランス)も発がんの過程において何らかの役割を担っている可能性は無いのだろうか? RCCでは3pの欠失型構造異常以外にも実に多種多様な染色体異常が認められる。この事実は単に染色体レベルでの異常という点に着目しただけでも,がんの発生機構は一つではなく,複数の過程が存在するかもしれないという可能性を示しているように思えてならない。また,最初に生じたゲノムの不均衡ががん細胞の分裂過程においてさらなる不均衡を生み出し,浸潤や転移能力を持つより悪性な癌へと変貌していくことも予想される。
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© 2006 日本放射線影響学会
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