抄録
生きている細胞及び細胞内小器官を標的として1μm3オーダーの領域だけにイオンビームを照射するための技術開発をしている。これまでに出口径1μm前後の先細り型ガラスキャピラリーを用いて、イオンビームを出口径の太さまで収束することに成功している。最近、ガラスキャピラリーの出口を薄いガラスで蓋をする手法を開発した。その蓋付きガラスキャピラリーを用いることで、ビームラインの真空を維持したまま液相中及び気相中に収束イオンビームを取り出せるようになった。ビームエネルギーと蓋の厚さは調整できるため、エネルギー付与領域を3次元的に1μmオーダーで制御可能となった。今回、液相中でのエネルギー付与領域を可視化するために、蓋付キャピラリーの先端部を液体シンチレータに挿入し、先端部から抜けてくるイオンビームによるシンチレータの発光を顕微鏡で観察した。例えば、3 MeVのα線を蓋の厚さが7μmで出口の内径が1.5μmのキャピラリーに入射した場合、発光領域は長さ約6μm、直径約4μmとなり、飛程計算コード(SRIM2003)で算出した値とほぼ一致した。蓋付キャピラリーを用いることで、イオンビームのエネルギー付与領域を3次元的に1μmオーダーで制御し、その領域を細胞1個程度の大きさにすることに成功した。