日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第49回大会
セッションID: OR-10-4
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放射線感受性
放射線誘導性老化様形質を発現した血管内皮細胞における血管新生能の解析
*五十嵐 香理崎元 一平片岡 啓子太田 慶祐三浦 雅彦
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抄録
血管新生は固形腫瘍が増大するために必要な現象であり、癌治療の標的として注目されている。放射線治療は癌治療の重要な一端を担っているが、電離放射線の血管新生への影響はまだはっきりしておらず、血管新生を抑制しているという報告もあれば逆に促進するという報告もあるのが現状である。また、電離放射線が与える影響はアポトーシス量を指標にして判断されることが多いが、実際の放射線による血管内皮細胞のアポトーシス発現頻度は10-20Gyでも10%程度という低頻度である。今回我々は、放射線によって血管内皮細胞に老化様増殖停止が高頻度に発現する事を見出し、この現象が血管内皮細胞の血管新生能の抑制に寄与する可能性について検討した。
8Gy照射24時間後のアポトーシス量は数%未満であった。その後細胞を観察し続けると、3日後には老化様形質が約9割の細胞に確認された。そこでマイクロアレイにより遺伝子解析を行うとDNA複製能と細胞周期調節因子関連遺伝子発現の顕著な低下が見られ、Gene Ontology解析においてもこれらの機能が最も影響を受けていることが示された。この結果を踏まえて8Gy照射後の増殖能を調べると、確かに増殖停止とDNA合成能の著しい低下が起こっていた。次に血管新生能を調べると、血管内皮細胞の増殖を反映しうる血管新生アッセイでは、8Gy照射により血管の伸張が抑えられており 、また、aphidicolinによりDNA複製を抑制しても著しい抑制が認められた。細胞の浸潤・遊走能を調べると老化した血管内皮細胞において有意に低下していた。
以上の結果から、少なくとも本実験条件においては、血管新生過程にある対数増殖期の血管内皮細胞は放射線により老化様増殖停止が引き起こされ、浸潤・遊走能をも抑制されることで血管新生能は阻害されると結論された。しかしin vivoでは血液中を循環している血管内皮前駆細胞の関与もあるため、更なる研究が必要である。
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© 2006 日本放射線影響学会
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