抄録
我々のグループでは高感度かつ網羅的に転写物を解析できる技術、HiCEPを開発し、培養細胞を材料にした放射線応答遺伝子等の解析を行ってきた。HiCEPはAFLP法に基づく技術であり、マイクロアレイ等と全く異なる遺伝子発現検出原理によることから、転写物の測定感度と再現性に優れており、臨床材料を用いた発現解析においても強力なツールとなり得る。本発表では癌の放射線治療への寄与を目指して、乳癌検体を用いたHiCEPによる遺伝子発現プロファイル解析を行った結果を紹介する。
HiCEPを使用した乳癌組織由来転写物の網羅的遺伝子発現プロファイル解析により、乳癌転移の有無に応じて顕著に発現変動する20個の転写物を検出し、内17個を分取した。配列解析の結果、14転写物が既知mRNAに相同性を持ち、これまで癌関連遺伝子として知られている転写物が6個含まれていた。さらにこの中には乳癌の予後推定遺伝子として臨床的に用いられるerbB2(HER2)遺伝子のスプライシングバリアントが2種含まれていた。
条件のコントロールが容易な培養細胞だけでなく、臨床検体に関するHiCEPの効果が確認されたことから、今後は放射線感受性や癌等に関連する新規なマーカー遺伝子の獲得が期待される。