抄録
私は、今般50回記念大会を開催するにあたり、放射線影響研究の過去を振り返り、現在を想いつつ将来を考える機会であると考えました。放射線研究は幅広い領域を扱っておりますので、生物学研究も広範囲に渡ります。人は誰しも特有の発想をしますし、それは当人の資質とそれまでの経験を生んできた環境に規定されます。私は放医研という大変ユニークな研究所にて35年もの間にわたる研究生活を送る事が出来ました。がん放射線治療の生物学的研究であります。従って、ここでは治療の基礎である生物学において今までの歴史で何が大切な発見であったかを見つめることから、今回のお話をしたいと存じます。過去において重要な発見は下記の5項目であると考えます。即ち、(1)コロニー形成法、(2)亜致死損傷および潜在的損傷とそれらの修復、(3)腫瘍低酸素、(4)細胞の再増殖と放射線治療における4R、(5)アポトーシス。次に現在における重要な発見と提唱については、(6)線量-効果における線形-二次関係および(7)陽子線治療、だと思います。最後ですが、将来は難問です。ハリウッド映画監督サミュエル・ゴールドウインの警句{“Never make forecasts, especially about the future”}は正しいでしょうが、それでも敢えて挙げれば下記の2事項が近未来に重要な発見がもたらすのではないかと想います、即ち、(8)遺伝子情報に基づいた放射線感受性予測、そして(9)細胞内・外に発現している分子をin vivoで捕らえる分子イメージング、であります。これらの予測が当たっているかどうかは20年後には明らかになるでしょう。
付記:治療以外で重要な発見には(10)分割照射によるマウス胸腺リンパ腫誘発があります。