抄録
エックス線が発見されてから100余年、がん治療における放射線治療の存在感がますます強くなっている。最近は特に、病巣への線量集中と正常組織の温存を可能とした高精度照射装置が次々と開発され、治療成績の改善とともに適応疾患の拡大に貢献している。歴史的に放射線治療は、エックス線発見の僅か2ケ月後に始められ、3年半後には初めて放射線による局所治癒例が報告された。その後、放射線治療は大きな期待を担って続けられたが、当時の低エネルギーX線では、がんは思うように治らず、皮膚障害ばかりが目立つという歯がゆい状況が続いた。
1950年代初頭になって、こういった状況は大きく変わることになる。テレコバルト装置やLinacといった超高エネルギー治療装置が登場したからからであり、同時に、より有効な線量集中照射法を目指して、十字火照射、集光照射、振子照射、および回転照射などの開発も活発に試みられたからである。1960年には高橋がIMRTの原形となった原体照射法を発表したが、この時点では、これにより劇的な成績改善には至らなかった。当時のアナログ制御のもとでは限界があったからである。
1972年に発表されたCTは、診断の世界はもちろんのこと、放射線治療の可能性を飛躍的に広げてくれた。CT出現によりディジタル計算が可能になったことで、高橋の考え方も一気に花開くことになったし、革命的ともいわれる強度変調照射法も開発されたのである。陽子線や炭素線治療などイオン線治療も、CTにより体内線量分布計算が可能になったことから、その特徴を発揮できるようになった。しかし、問題がないわけではない。これまで数多くの最先端照射装置・照射法が商品化され、普及しつつあるが、これらの棲み分けは必ずしも明確でなく、いわば戦国時代が続いている。
放射線治療の歴史は一貫して、「より強く、より優しい治療法」を目指した努力の積み重ねであった。21世紀になり、本当にこれが現実のものとなるか、プラス何かが必要である。ここでは、臨床からみた放射線生物学の役割などについても触れたい。