抄録
繊維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーは細胞の増殖・分化を制御し、生存を維持することが報告されている。このため、米国ではガン患者に放射線化学療法の副作用として生じる口腔粘膜炎を治療する薬剤としてFGF7 (KGF) が既に認可されている。FGFファミリーの中で、FGF7は上皮細胞に作用特異性を有するのに対し、FGF1は最も広範な受容体特異性を有するため、上皮細胞を含む多種の細胞に作用すると期待される。本研究では、ヒト角化細胞HaCaTの紫外線(UV)誘導性アポトーシスに対する抑制効果をFGF7とFGF1で比較解析した。
細胞にUV-Bを照射し(10 mJ/cm2)、24時間培養後に全細胞を回収し、アネキシンVで染色されるapoptotic細胞をフローサイトメーターで解析した。HaCaT細胞はUV照射によって約半数の細胞がアネキシンV陽性となった。UV照射の18時間前に各種FGF及びヘパリンで細胞を刺激すると、アネキシンV陽性細胞は減少し、その効果は用量依存的であった。FGF1によるアポトーシス抑制効果は、既に報告があるFGF7によるものより、より効果的であった。一方、アポトーシス関連遺伝子の発現変動をリアルタイムPCRで解析したところ、c-jun、IL-6遺伝子の発現が、HaCaT細胞をUV照射後24時間まで経時的に上昇することが認められた。これら遺伝子の発現上昇も細胞をUV照射の前に各種FGF及びヘパリンで処理することによって抑制された。いずれの解析系においても、実験した条件においてはFGF7よりもFGF1の方が効果的であった。以上の結果から、UV照射により誘導されるHaCaT細胞の障害は、FGFの前投与によって抑制できることが示された。現在、その活性に関与すると考えられるFGF受容体を介したシグナル伝達系の解析を進めている。