日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: BO-021
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突然変異と発癌の機構
放射線誘発萎縮胸腺に存在する前がん細胞の同定と放射線影響
*木南 凌山本 幹大井 博之
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抄録

放射線4回分割照射後のマウス胸腺は細胞死と再生過程を経過し、約100日後から胸腺リンパ腫が出現し、照射後300日目には60-70%のマウスが胸腺リンパ腫を発症する。この胸腺リンパ腫細胞の特徴として、VDJ組換えを行なった分化形質をもつこと、大型の胸腺細胞であることなどが知られている。発症までの胸腺は萎縮した状態にあり、この萎縮胸腺の中にはすでにがん化のステップを登り始めた胸腺細胞(前がん細胞)が含まれるとの報告がある。そこで、この前がん細胞の出現の時期と性質の検討を行った。照射35日後細胞数は0.15-2.9 x 107とバラツキを示すが、正常胸腺(4-20 x 107)と比べるとすべて減少していた。FACS解析による細胞の大きさ測定では、約20%の胸腺でbroadなパターンを示し、胸腺を占める大型リンパ球の割合が増加していることを示している。クローナル増殖の指標となるVDJ組換えパターンの単一性の解析では、大型リンパ球増加を示した萎縮胸腺の約1/3に単一性がみられた。Rit1/Bcl11b遺伝子のアレル消失をPCR法で調べると、その約半分にLOHが認められた。一方、BrdUの細胞内取り込みは、非照射胸腺では大型リンパ球は高い取り込みを示すが、萎縮胸腺大型リンパ球では低いBrdU取り込みが観察された(小型リンパ球の取り込みは極めて少ない)。これらの結果は、照射後35日でもすでにクローナル増殖する大型リンパ球が出現し、時間経過とともにその細胞の割合が胸腺内で増加し、Rit1/Bcl11bアレル消失の頻度が上昇することを示唆する。しかし、照射後100日までは細胞数の低下とBrdU取り込み低下を示し、胸腺は萎縮した状態を保つ。この大型細胞は前がん細胞と考えられ、さらに細胞増殖周期の活性化などを含めた機能付与がリンパ腫の成立に必要であることが示唆された。

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© 2007 日本放射線影響学会
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