主催: 日本放射線影響学会
<目的>高線量率放射線照射がマウスやヒトにおいて急性骨髄性白血病(AML)を誘発することはよく知られている。近年の癌研究の分野において、ごく少数の癌幹細胞からがん組織が形成されるという報告が様々な癌において報告されている。本研究では、放射線誘発AMLの発症機構を明らかにするために、C3Hマウスの放射線誘発AML細胞の起源となる造血細胞の発生●分化段階を検討した。<実験方法>ガンマ線(1.0 Gy/min)3Gyを雄C3H/He Nrsマウスに照射してAMLを誘発した。発症した8個体の脾臓からAML細胞を採取し、同系雌マウスに移植後、AMLを発症したマウスから骨髄と脾臓細胞を取り出し、それぞれの細胞表面抗原の発現をフローサイトメトリーで解析した。<結果> 8例中4例のAMLでは骨髄性幹細胞(CMP)様細胞(lin-c-kit+Sca1-)の割合が増加し、残りの4例では造血幹細胞(HSC)様細胞(lin-c-kit+Sca1+)の割合が増加していた。また、8例全てのAMLにおいて、同一個体中の骨髄細胞と脾臓細胞の細胞集団の構成には違いが観察されなかった。アレイCGH解析でゲノム異常を調べたところ、CMP様細胞が増えていた4例中2例に放射線誘発AMLで高頻度に出現することが知られている2番染色体の片側欠失が観察された。さらに、この2例のAML中1例の細胞を、HSC様、CMP様、リンパ性幹細胞(CLP)様の3つの細胞集団に分けて同系マウスに移植しAMLを誘発させたところ、CLP様細胞を移植したマウスでは発症率の低下や遅延が観察された。<考察>2番染色体片側の部分的な欠失を持つ放射線誘発AML細胞は、HSCもしくは、CMPに近い分化段階の造血細胞を起源としていると考察される。本研究は青森県からの受託事業で行われた成果の一部である。