抄録
胃潰瘍治療薬として用いられているポラプレジンクは亜鉛とL-カルノシンの錯化合物で、抗酸化作用、粘膜保護作用、創傷治癒促進作用を持つことが報告されている。今回我々は、ポラプレジンクがラット小腸クリプト細胞の放射線誘発アポトーシスを抑制するかどうか検討した。
7-8週齢のウィスターラットに、ポラプレジンク100mg/kgを経口投与したポラプレジンク群と、2 %カルボキシメチルセルロース (CMC) 溶液を投与したコントロール群に2 GyのX線全身照射を行った。照射後1, 2, 4, 6時間後の空腸を摘出し固定後、長軸方向に包埋、薄切を行い、HE染色にてクリプト細胞のアポトーシス細胞をカウントした。さらにTUNEL染色、Active Caspase-3染色を行い、陽性細胞をカウントした。ウェスタンブロット法にて空腸組織の照射後のp53の蓄積、p21の発現を調べた。ポラプレジンク群の小腸クリプト細胞のアポトーシス数は、2 Gy照射後2, 4, 6時間でコントロール群に比べ、有意に減少した。ポラプレジンク投与群のTUNEL及び Active Caspase-3陽性細胞もコントロール群に比べ有意に減少した。コントロール群の小腸組織内のp53の蓄積、p21の発現は、照射後2, 4, 6時間と増加するのに対し、ポラプレジンク投与群ではコントロール群に比べ低値であった。ポラプレジンクの照射前投与は小腸の放射線誘発アポトーシスを抑制し、その機序の一部はp53経路を介していることが示された。