抄録
電離放射線によるがんの治療は、腫瘍細胞の放射線感受性の違いによってその効果が大きく左右される。したがって、腫瘍細胞の放射線感受性を増加させたうえで放射線を照射することが、治療効果をあげるうえで重要となる。放射線に対する感受性を増加させる方法の一つとして、DNA修復機構を阻害する方法が考えられる。実際、DNA修復に関わる遺伝子に突然変異を生じた細胞では、放射線に対する高い感受性がみられる。MRE11やNBS1といった遺伝子もそれらの一つである。MRE11とNBS1はそれぞれAT類似症候群とナイミーヘン症候群の原因遺伝子であり、いずれの患者由来細胞も放射線に対して高い感受性を示す。したがって、これらのタンパク質の機能を阻害できれば、放射線感受性を増加させられると考えられる。MRE11とNBS1はRAD50と共にMRN複合体と呼ばれるタンパク質複合体を形成し、DNA二重鎖切断に対する細胞の初期応答において重要な役割を果たす。MRN複合体には他にも様々なタンパク質が結合することが報告されており、これらのタンパク質間相互作用がMRN複合体の機能において重要であることが示唆されている。したがって、これらのタンパク質間相互作用を阻害することで、MRN複合体の機能が阻害されると推測される。また、MRN複合体は、DNA結合活性やヌクレアーゼ活性といった生化学的な活性を持っているので、それらの活性を阻害することも有効であると思われる。我々は、培養細胞においてMRN複合体の機能を阻害することを試み、それらの処理によってどれだけ放射線増感作用があるか検討した。