日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: FP-239
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低線量・低線量率の効果
ヒトリンパ芽球由来細胞による放射線適応応答の分子機構に関する研究
*柿本 彩七根井 充小島 周二
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抄録
放射線適応応答は、予め低線量放射線(priming dose)を照射しておくことで、その後の中高線量放射線に対する抵抗性を獲得する生体の防御的反応である。放射線適応応答は、低線量放射線が中高線量放射線とは質的に異なる影響を生体に及ぼすことを意味しており、低線量放射線のリスクを評価する上で重要な生命現象である。本研究では、ヒトリンパ芽球由来細胞AHH-1におけるHPRT遺伝子座突然変異を指標とした放射線適応応答の分子機構を解析した。まず、3 GyのX線照射後のHPRT遺伝子座における突然変異頻度が0.02 Gyから0.2 Gyのpriming dose照射によって有意に低下することを観察した。一方、0.005 Gyの事前照射では有意な適応応答が観察されなかったことから、priming doseの下限が0.005 Gyと0.02 Gyの間にあることが示唆された。次に、poly(ADP-ribose)polymerase 1の阻害剤である3-aminobenzamide (3AB) は染色体異常を指標とした放射線適応応答を阻害することが報告されているが、本研究では3AB存在下でも突然変異を指標とした場合に有意な適応応答が観察された。このことから、指標によって異なるメカニズムが機能していることをが示唆された。更に、HiCEP法を用いて遺伝子発現変化の網羅的解析を行った。その結果、0.02 Gy照射6h後に有意に発現変動する遺伝子17 個が検出された。また、priming doseがchallenge doseに対する応答に影響している可能性を考えて、3 Gy照射後3hおよび18hにおける遺伝子発現を0.02 Gyの事前照射をした場合と照射しない場合で比較した。その結果、3 Gy照射後3hでは17 個、18hでは20 個の遺伝子の発現変動が確認された。遺伝子の機能検索した結果、MAPキナーゼを介する細胞内情報伝達関連遺伝子や酸化還元関連遺伝子等が放射線適応応答に相関して発現変動していることがわかり、放射線適応応答の一因を担う可能性が考えられた。
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© 2007 日本放射線影響学会
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