日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: FP-240
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低線量・低線量率の効果
放射線適応応答は単純に有益な事だけなのでしょうか?胎児マウス系において見られた良い事とそうではない事。
*王 冰田中 薫ヴァレス ギヨーム尚 奕根井 充
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抄録
適応応答研究の多くは、この現象が有益な効果をもたらすものとして扱っている。多くの細胞系において、前照射は、本照射によって引き起こされる有害な影響を有意に抑える(主に遺伝子の突然変異、染色体異常、形質転換、細胞死の頻度を低下させる)ことが示されている。しかしながら、生き残った者たちが本当に正常かどうか、すなわち、遺伝学的、生理学的、機能的に非照射対照群と本当に同じかどうかはほとんど知られていない。適応応答は有益であるという先入観がある状況で見れば、細胞死が減少したという事実は、個体の生存率が増加したことを説明するのに都合がいい。しかしまた、細胞死が増加することも、こじつけて考えれば有益なことにもなる。つまり、修復できない損傷を持った細胞の除去を促進すると考えれば、ゲノムの不安定性や発癌を減らすことができることになる。実際限られたendpointや単純化された細胞系では限界があるし、in vitroのシステムだけから包括的に適応応答について述べることはほとんど不可能であると思われる。胎児を使った適応応答の研究において、endpointによって違った結果が得られた。適応応答の存在が証明されている胎児モデルの中で、適応応答の良い点としては、胎児期死亡と奇形を持った胎児の数が有意に減少したことがあげられる。しかしその結果、悪い点として、生き残ったマウスは、出生後の死亡率が非常に高くなり、神経生理学的な変化や発育遅延を起こすというようなひどい障害を被っていた。さらに、ヤングアダルトでは、米沢効果は認められず、放射線に対して高感受性であった。今回、寿命の短縮と一生涯にわたって体重が少ない状態であったことを報告する。これら個体レベルの研究から、適応応答は単純な現象ではあるが、複雑な結果を伴っていることが示された。将来人間に適応応答を適用することの可能性をについて考えるに先立ち、倫理や健康や生活の質等というようなことを十分考慮する必要があると思われる。
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© 2007 日本放射線影響学会
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