抄録
広島・長崎の原爆被爆者の急性被曝障害については、これまで様々な研究がなされてきている。このうち脱毛は、原爆炸裂時には爆心から離れた場所におり、その後、市の中心部に入って被曝した「入市被爆者」にも認められたとされている。入市被爆者に対して原爆炸裂時に伴う瞬間的な中性子・γ線被曝がほとんどなかったことを考えると、入市被爆の主な要因としては地面近傍の物質の放射化による誘導放射能が考えられる。入市被爆者の脱毛が放射線によるものであるかを考える上で、原爆中性子によって土壌中に生成した放射性核種による皮膚線量を評価することはきわめて重要と言える。
これまでの原爆線量評価体系(T65D、DS86、DS02)においてはγ線のみが取り扱われてきた。一方、皮膚被曝においてはβ線及びγ線の両方が寄与し得たと考えられ、特に放射化土壌が皮膚に付着した体系ではβ線寄与が支配的になる例が考えられる。そこで本研究では、β線及びγ線由来の皮膚線量を、放射化した地面による被曝、ならびに皮膚に付着した放射化土壌による被曝の両方について評価する。本報ではその結果について報告する。