抄録
原子炉や第二次世界大戦中の核兵器の開発に伴い、作業者や公衆の電離放射線に被ばくする可能性は顕著に増大した。ほぼ同時に低レベル電離放射線の長期被ばくが、発がん・遺伝的影響の原因となる可能性も明白となってきた。これらの開発に対応して、電離放射線の線源と影響を報告するために、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が1955年の国連総会によって設立された。
1952年から1954年の間の大気圏における60メガトンもの水素爆弾の大爆発は全世界の放射性降下物を顕著に増大させた。UNSCEARの課題は、放射能汚染の被ばく評価の手法を開発することとこれらの被ばくの人への影響を評価することであった。当委員会は、当事、人の被ばくの最も重要な被ばく経路の一つと考えられていた90Srの測定に基づいた放射性降下物による汚染の評価のための世界的なプログラムを調査した。2000年報告書では、委員会は1963年までに全世界の線量が大気圏核実験により通常のバックグランドレベルより5%も上昇したと推定した。委員会の活動は、1963年の部分的核実験禁止条約の採択のために役立った。
過去50年間にわたってUNSCEARは活動を続け、放射線被ばくの線源や人間とそれ以外の生物への電離放射線の影響について調査してきた。当委員会は核燃料サイクルや他の人工線源の放射線影響と同様に医療被ばくや電離放射線の自然線源の被ばくについても評価してきた。今日ではそれら人工線源よりも医療や自然線源による線量の方がはるかに大きいことは明らかである。
2006年UNSCEARは放射線の生物学的影響に関する5つの附属書を取りまとめた。
・住居と職場でのラドンの線源から影響までの評価
・放射線とがんに関する疫学研究
・放射線被ばくに伴う心血管疾患とがん以外の疾患の疫学的評価
・免疫系における電離放射線の影響
・電離放射線被ばくの非標的効果および遅延影響
以上を纏めて委員会は、放射線の健康影響の推定は、線量に関連した統計的に有意な罹患率増加が認められる範囲においては疫学的および実験的観察に基づいているという見解を示した。健康への悪影響のこれら直接的な観察は、照射の標的(直接的)効果だけでなく、非標的効果及び遅延影響に関係したメカニズムが含まれていることを暗に説明している。低線量では、有害な健康影響を引き起こすメカニズムを洞察するために、細胞や組織の反応の範囲や性質の理解が必要である。UNSCEARはUNSCEAR2000年報告における低線量影響に関するデータが、リスク推定に影響するメカニズムが正しいかどうかの判断のために適切な根拠を提供すると信じている。
UNSCEARは活動を続け、現在チェルノブイリ事故20年後の影響、電離放射線の人以外の生物への影響、放射線の職業、公衆、医療被ばくについての報告の準備をしている。2008年の第56回会合において当委員会は今後数年間の作業プログラムを承認する予定である。