日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W1R-316
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放射線発がんの”非標的仮説”について
変異p53導入マウスにおける化学発がん率の上昇、およびsiRNAを用いた導入p53の発現抑制による自家発生がんの実験治療
*田ノ岡  宏野田 攸子巽 紘一辻 秀雄大津山 彰竹下 文隆落谷 孝広
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抄録

[目的] p53突然変異は発がんの原因であるか、もしそうならこの発現を抑制することによってがんが治るかを証明する。
前大会では、放射線誘発皮膚がんで約1/3の頻度でみられる変異p53のうち、exon 6 に9 bpの欠失を有する変異p53 のcDNAを発現ベクターにつないだpTE50を導入したトランスジェニックマウスについて、メチルコラントレン皮下注入による線維肉腫誘発率の増加、およびこの腫瘍に対するsiRNAの増殖抑制効果について予備結果を報告した。今回は、発がん結果のまとめ、実験治療効果の機構として、アポトーシスが関与することを報告する。
[結果] 変異p53導入マウス(93匹)の、そけい部皮下にオリーブ油に溶解したメチルコラントレン0.02 mgを注入し、Kaplan-Meyer解析で発がん率を算定すると、野生型マウス(159匹)に比べて1.7倍の発がん率の増加がみられた(p<0.01)。すなわち全体の42%が変異p53によるものとみられる。雄雌を比較すると雄マウスの発がん率が高い傾向を示し、ヒト男性Li-Fraumeni症候群にみられる性差との類似がみられた。さらに発生した腫瘍の周辺に、変異p53発現ベクタープロモータ部に設定したsiRNA#220をアテロコラーゲンと混和して注入すると、増殖抑制効果が26% (6/23)の自家発生がんでみられ、完全消失は4例であった。移植腫瘍では抑制33% (7/21)、完全消失4例であった。野生型マウス腫瘍25例にはsiRNA#220の効果はなかった。さらに、siRNA#220感受性移植線維肉腫TT15をsiRNA#220投与後TUNEL法で染色すると、未投与、あるいはnon-sense siRNA投与の場合に比べて顕著なアポトーシスがみられた。
[結論] 変異p53に依存する腫瘍ではsiRNAにより変異p53の発現が抑制され、その結果、内在性正常p53の作用が回復すると考えられるが、腫瘍の治癒にはこの内在性p53によるアポトーシスが関与していると考えられる。

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© 2007 日本放射線影響学会
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