日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W3R-334
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放射線DNA損傷修復機構研究の最前線
DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の真の基質と機能
*松本 義久
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抄録
DNA-PKは2本鎖DNAの末端に結合することによって活性化する性質を持ち、また、3つのサブユニット(DNA-PKcs、Ku86、Ku70)のいずれか1つを欠損する細胞・個体は放射線高感受性、V(D)J組換え異常(免疫不全)を呈する。このことから、DNA-PKはDNA二重鎖切断の修復・解消に極めて重要な分子と考えられており、また、「タンパク質リン酸化活性」がその機能に必須であることも示されている。しかしながら、「DNA-PKが何を何のためにリン酸化するか?」という問題については、長年未解決のまま残されている。近年、DNA-PKcs自体のリン酸化、即ち、自己リン酸化がクローズアップされているが、DNA-PKはそれ自身をリン酸化するためだけに存在するのか?
我々は数年来、この「DNA-PKの真の基質とリン酸化の意義」の問題に取り組んできた。2000年に我々は、XRCC4タンパク質が放射線照射された細胞内でリン酸化を受けることを示した。このリン酸化はDNA-PKcs欠損細胞では見られないことから、DNA-PKcsがリン酸化に必要であると考えられた。その後、精製DNA-PKと組換えタンパク質を用いたin vitro実験によりリン酸化部位を数カ所の同定し、リン酸化状態特異的抗体を作製した。これを用いて、そのうち一部は少なくとも放射線照射後にリン酸化を受け、また、リン酸化にDNA-PKcsが必要であることを示した。更に、XRCC4欠損細胞M10に正常およびリン酸化部位欠損変異体XRCC4 cDNAを導入したところ、リン酸化部位変異体発現細胞は正常XRCC4変異体細胞とXRCC4欠損細胞の中間の放射線感受性を示した。このことから、XRCC4のリン酸化がDNA二重鎖切断修復の効率や精度を保証するために重要であることが示唆された。「リン酸基の付加」という変化がXRCC4の構造、性質、機能などにどのような変化を与えるのかが今後の課題である。
本発表では、上記の研究に鑑み、「リン酸化部位を決める」「リン酸化の意義を見つけ出す」研究の意義や展望、また、がんの診断、治療への応用可能性などについても議論したい。なお、上記で同定されたXRCC4のリン酸化部位はSQ/TQ則に一致しなかった。このことは今後DNA-PKあるいは類似酵素の研究を展開する上で注意すべき点として指摘したい。
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© 2007 日本放射線影響学会
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