日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: W5-354
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低線量、低線量率放射線の生物影響の分子メカニズム
極低線量・低線量率重粒子線1回照射による細胞老化およびゲノム不安定性
*岡安 隆一岡田 真希岡部 篤史関根 絵美子内堀 幸夫北村 尚鈴木 雅雄
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抄録
宇宙空間に滞在する宇宙飛行士は1日に約1mGyほどの低線量電離放射線を浴びるとされており、その内容は陽子線がかなりの部分を占める。しかしながら重粒子線はその寄与は少ないものの、より強い生物効果をもたらすため重要になる。今回われわれはヒト初代培養細胞を用い、重粒子線、極低線量・極低線量率1回照射の生物影響を長期間にわたって観察した。正常ヒト繊維芽細胞では炭素線(290MeV/n, 70 keV/um)1mGy/6-8 h・1回照射後、非照射群の細胞と比べ、確実に細胞の老化が早く起こることが確認された。われわれが使用した線量・線量率では照射されていない細胞がかなり存在するので、この効果はバイスタンダー効果と考えられる。これに比べ、同線量・線量率ガンマ線照射後では寿命の短縮は見られず、むしろ延長の傾向が見られた。DNA DSBの指標であるガンマH2AXのフォーカス数は細胞がsenescenceに入る2-3passage前で非照射、照射群とも上昇したが、炭素線照射後の細胞は特に増加が顕著であった。DSB修復蛋白DNA-PKcsのリン酸化フォーカスはガンマH2AX以上にこの傾向が強かった。興味深いことに、これらの指標のフォーカスは、細胞が一度senescenceに到達すると、照射にかかわりなく明らかにその数が減少した(Okada et al British Journal of Cancer, 2007)。さらにヒト非相同末端修復欠陥細胞(180BR)では、低線量照射後かなり早い時期に老化に似た傾向を示すこともわかった。これらの観察により、重粒子線はたとえ極低線量でも何ヶ月もあとに生物効果をもたらす可能性があること、DNA DSB修復機構に必要な蛋白が細胞のsenescence にも役割を果たしていることが伺われる。
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© 2007 日本放射線影響学会
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