抄録
【背景】太陽紫外線は皮膚癌の主要な誘発因子であり、特にそのUVB成分が強い発癌作用を示すことが知られている。しかし長波長側のUVA成分も皮膚癌誘発に関与しているのではないかと疑われている。UVBは光化学反応により直接DNAにUV特異的DNA損傷を生成することが知られているが、UVAは活性酸素生成を通じた酸化型損傷の影響が注目されている。培養細胞による研究では、UVAによって酸化型突然変異が誘発されたという報告もあるが、UV特異的変異が誘発されたとする報告もある。培養細胞を用いた人工的実験系では、培地成分等に存在する光増感物質の影響が無視できず、結果を複雑にしているものと推測される。
【研究経過と方法】こうした問題を回避するには生体皮膚で直接UVAの影響を評価することが有効と考えられる。我々は突然変異検出用に開発されたトランスジェニックマウス(Muta)を用いて、皮膚表皮にUVAで誘発される突然変異の解析を進めてきたが、UVA2(320-340 nm)を主要効果波長とするブラックライトでは酸化型変異ではなくUV型変異が誘発された。今回、UVA1領域(340-400 nm)の影響を調べるため、364 nmのレーザ光を利用して(線量率300 W/m2,照射線量0.41~3 MJ/m2)、マウス皮膚に誘発される突然変異を解析した。
【結果と考察】レーザ光照射により皮膚ゲノム中に8ハイドロキシグアニン及びシクロブタン型ピリミジンダイマー(CPD)の線量依存的生成が確認された。また突然変異頻度の上昇も認められたが、誘発された突然変異スペクトルに活性酸素の影響はほとんどなく、紫外線型のC→T塩基置換を主とするものであった。これらの結果より正常皮膚ではUVA1によって生成する活性酸素のゲノム毒性はDNA修復などによりほぼ完全に防御されること、CPDがUVA1によるゲノム毒性をもたらすことが示唆された。(基礎生物学研究所大型スペクトログラフ共同利用実験4-507, 5-507, 6-511, 7-509)