日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: AP-25
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DNA損傷・修復
胎仔あるいは出生後早期に照射されたマウスのリンパ球や骨髄細胞には染色体異常が残りにくい: 多色FISHによる再評価
*中野 美満子児玉 喜明大瀧 一夫中村 典
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抄録
目的:マウスを胎仔期あるいは新生仔期に照射し、20週齢で染色体検査をすると異常がほとんど見つからないことがわかった。この理由のひとつとして、放射線被曝により胎仔の造血幹細胞が減少し、そのために骨髄細胞が極めて少数の細胞由来であったとすると、一部の転座のみを検出するこれまでの2色FISH(1番と3番染色体の転座を検出)では、クローン性転座異常を含めてゲノム全体の異常を正しく検出できなかった可能性があった。そこで、今回はすべての染色体で転座型異常を検出できる多色FISH(M-FISH)を用いて、観察結果の検証を行った。 材料と方法: B6C3F1の15.5日齢胎仔(母親は12-13週齢)および4日齢仔にX線を2Gy照射し、18-21週齢になった時点で脾Tリンパ球の染色体標本を作製した。これらのサンプルのうち母親を含む数例について すべての染色体(#1 - #19, X and Y)をM-FISHで着色し、転座型異常を検出した。 結果:M-FISHにおいても胎仔(3例)あるいは新生仔期(1例)に照射された動物の20週齢における転座型異常頻度は、母マウス(1例)照射の場合と比べて非常に低かった(0 ~9% vs. 24%)。胎仔あるいは新生仔照射マウスではこれら異常の中にクローン性転座異常が存在したが、母親では異常頻度が高いにもかかわらずその存在は確認できなかった。同じ個体におけるM-FISHと2色FISHによるゲノム当たりの転座型の異常頻度はよい相関を示した。 結論:M-FISH解析によりこれまでの2色FISHによる転座頻度がゲノム全体の異常頻度を正しく反映していることが明らかになった。成体と異なり胎仔あるいは新生仔期に照射されたマウスでは放射線により生じた染色体異常細胞の多くが速やかに排除されるが、偶然生き残った異常細胞は血液幹細胞あるいはその前駆細胞としてクローン性に増殖できる可能性があると考えられた。
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© 2008 日本放射線影響学会
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