抄録
【目的】
p53タンパク質は放射線誘導アポトーシスおよび細胞増殖抑制シグナル伝達系で重要な役割を果たしており、放射線による腫瘍増殖遅延に深くかかわっている。そのため、正常な機能を失った変異型p53を保有する悪性腫瘍は放射線抵抗性の傾向が一般的に見られ、有効な放射線増感法が望まれている。今回、ヒト肺がんの担がんヌードマウスを用いて、変異型p53タンパク質に正常型p53タンパク質の機能を回復させるはたらきを持つp53C末端ペプチドが放射線で誘導される腫瘍増殖遅延を増強するかを検討した。
【方法】
p53欠損ヒト非小細胞肺がん細胞 H1299に変異型p53を導入した細胞(H1299/mp53)あるいはneoコントロールベクター導入した細胞(H1299/neo)をヌードマウスの大腿皮下に移植し、腫瘍径が約5 mmに達したところで、腫瘍体積の1/2量のp53C末端ペプチド(40 μM、アミノ酸残基361-382)あるいはコントロールとしてp53N末端ペプチド(アミノ酸残基14-27)をペプチド導入試薬(Penetratin1TM peptide)と共にX線照射(5 Gy)24時間前に腫瘍に局所注入した。経日的に腫瘍径を計測し、腫瘍体積変化を比較した。
【結果】
H1299/mp53移植腫瘍において、p53C末端ペプチドと放射線併用処理群ではp53C末端ペプチド処理単独群および放射線照射単独群に比べより強い増殖遅延が見られた。H1299/neo移植腫瘍ではp53C末端ペプチドによる腫瘍増殖遅延効果は見られなかった。
【考察】
今回、変異型p53保有移植腫瘍において、放射線で誘導される増殖遅延がp53C末端ペプチド処理併用によって増強された。このことはp53C末端ペプチドが分子シャペロン作用をもつと考察され、我々によるこれまでのin vitro実験系のみならず、担がんヌードマウスを用いたin vivo実験系でも分子シャペロン作用が見られることが分かった。