日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: FO-2-3
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被ばく影響・疫学
SCIDマウスに維持されたヒト甲状腺組織への核分裂放射線の影響
*足立 成基野村 大成梁 治子本行 忠志中島 裕夫猪原 秀典藤川 和男伊藤 哲夫
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抄録
放射線や化学物質の人体影響研究は、疫学調査、実験動物、培養細胞を用いなされてきた。我々は、正常ヒト臓器組織を、拒絶反応を無くしたSCID(重度複合免疫不全)マウスに移植、長期間維持することにより、ヒト臓器・組織への直接的な影響評価を行ってきた。
本研究では、バセドー氏病患者(内科的にホルモン分泌は正常化)の甲状腺組織をC57BL/6J-scidマウスに移植し、核分裂放射線、特に中性子線のヒト甲状腺組織への影響を評価するため、原子炉放射線(UTR-KINKI、毎時間0.2 Gy γ線+0.2 Gy中性子線)の1週間毎1時間照射を行い、137Cs γ線(1.19 Gy/min, 0.23 mGy/min)の2週間毎1Gy照射実験と比較した。本研究は、宇宙放射線被曝を想定した地上実験でもある。
形態、ホルモン分泌能の変化:γ線高線量率照射9 Gy以上で有意の組織障害とホルモン分泌低下があったが、低線量率照射では認められなかった。中性子線照射の場合は、0.2 Gy 4回照射以上でホルモン分泌の低下が認められた。
遺伝子変異:γ線高線量率照射(11~59 Gy)により、調査した癌関連遺伝子(p53, K-ras, c-kit, β-catenin, RET, bak, BRAF) のうちp53、c-kit遺伝子に、突然変異が有意に誘発されたが、低線量率照射では全く誘発されなかった。中性子線0.2 Gy 6回照射後、5~13ヶ月間の観察では、突然変異は検出されていない。
遺伝子発現異常:マイクロアレイ(GeneChip, Affymetrix)を用い、ヒト遺伝子発現異常を調べた。γ線1~3 Gy照射、原子炉放射線0.2 Gy 2~4回照射群では同期の非照射対照組織に比べ、線量依存的に遺伝子発現の変化を来たす遺伝子が増加した。
以上、ヒト甲状腺組織において、γ線照射に対する明確な線量率効果と中性子線の高いRBEが示された。
(文科省科学研究費、宇宙フォーラム助成金による)
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© 2008 日本放射線影響学会
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