日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第51回大会
セッションID: FO-3-3
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被ばく影響・疫学
抗腫瘍剤並びに電離放射線照射による神経堤障害症候群
*荘司 俊益SHOJI IsaoSHOJI Toshihiro
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抄録
抗腫瘍剤6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン6-diazo-5-oxo-L-norleucine(DON)は強力なグルタミン合成阻害物質として知られており、癌細胞が高いグルタミン要求性を有することから、抗癌剤、制癌剤特に抗神経内分泌腫瘍剤への利用が提供されてきた。DONによる異常発生の研究ではこれまで口蓋裂、骨格系形成障害などがよく観察されてきたが、妊娠母体にDONを投与し、その胎児への神経堤の機能異常並びに心・大血管異常の発生を詳細に調べる研究はあまり報告されていない。我々は、先天異常発生の予防と治療、並びに環境ストレス防護・安全性対策についての基礎的資料を得る観点から、各種環境ストレスの生物学的作用の特異性、特に異常発生との関係について検討する必要があると考えている。今回、我々は特にDNA損傷、神経堤障害と催異常発生感受性の関連性を明らかするために、DON並びにガンマ線を妊娠10日のラットの母体に全身暴露し、誘発された胎仔致死、生存胎仔の異常発生、特に心・大血管系異常及び外表異常との関係について検討する。DON投与群では、胎仔の致死、生存胎仔の心室中隔欠損、血管輪、右側大動脈弓、重複大動脈弓、Fallot四徴症などの心・大血管の異常に加え、発育遅延、下顎低形成などが認められた。特に心・大血管の異常の形成は、妊娠10日ラットの0.05-0.10μg/100g投与群に最も頻度が高く認められた。またDON投与群の胎仔の致死、吸収死亡する傾向が強くなったことも認められた。 他方、ガンマ線照射群では、胎仔吸収死亡率、生存胎仔の顔面などの異常発生頻度がいずれも線量依存性に増加した。顔面などの異常を合併した心室中隔欠損、右側大動脈弓、大動脈右方転位症、両大血管右室起始症、Fallot四徴症、動脈弓分岐異常などの異常発生頻度は線量依存性に増加した。その他、心室中隔欠損を伴ったFallot四徴症、房室弁異常、右側大動脈弓などが形成された。この事実は、右室流出路、大・肺動脈中隔、房室弁や半月弁形成においては、環境ストレスのDON投与並びに放射線照射がDNA損傷、神経堤の機能、Seccond heart field (SHF)の細胞、上皮-間葉転移(EMT)、神経堤細胞の遊走、分化及びその経路をなす基質の変化に重要な役割を果たすことを示している。また、DON実験による心・大血管系異常の型とその頻度はヒトDiGeorge症候群の先天性心・大血管疾患のそれと類似しているが、ガンマ線照射による実験では、騎乗大動脈、大動脈右方転位、両大血管右室起始症、Fallot四徴症などの円錐部動脈幹顔貌異常が見られる。このことからヒトの神経堤障害、SHF 細胞の異常、EMTの異常並びに心・大血管異常の形成にはDON並びに電離放射線など環境ストレスの関与が大きいことが示唆される。この動物モデルは、これらのヒトの致死、形成異常の発生機構並びに心・大血管系など疾患発生の予防と治療の解明にも有用であると考えられる。
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© 2008 日本放射線影響学会
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